北海道立文学館特別展 『細谷源二と齋藤玄 北方詩としての俳句』

俳句

一回目は、「俳句の展示も見ておこうか」くらいの気持ちで観に行った、北海道立文学館の特別展示『細谷源二と齋藤玄 北方詩としての俳句』でしたが、実に興味深い内容で、結局三回も通ってしまいました。

一回目は、全く知らなかった「新興俳句弾圧事件」という歴史に衝撃を受け、また、石橋辰之助の句

 饒舌の傷兵のうしろ闇ふかし

が印象的で、肝心の?細谷源二と齋藤玄については少し印象がぼやけてしまいました。また、俳句としての端正さは崩さないながらも、川柳的な感じを受ける句も多く、川柳と俳句の境界についても考えさせられました。

二回目は、職員の方に許可をいただいた上でメモを取りながらじっくり見て回り、改めて「新興俳句弾圧事件」で投獄された俳人たちの作品を読み、確かに戦争を詠んではいるけれども、さして反戦的とも言えない作品が多いことに、当時の言論統制の怖ろしさを一層感じ、また、細谷源二、齊藤玄、両人の経歴や句風の対比を味わった回でした。

そして三回目は、この展示の企画・監修をされた俳句作家の五十嵐秀彦さんによるギャラリーツアーに参加という贅沢なひととき。ユーモアと豊富な知識に基づいた五十嵐さんの解説が素晴らしくて、参加者からはたびたび笑い声が上がる和やかな雰囲気の中、展示にはない源二と玄の生涯のエピソードや、展示物の背景などを通して、源二と玄という二人の俳人や、その作品への北海道の風土が与えた影響、新興俳句運動と新興俳句弾圧事件、当時の俳壇の動きや、それぞれの俳人の関係などについてより深く学べたと思います。特に、企画段階ではどうしても見つからなかった、齋藤玄の自筆句集『かりみち帖(雁道帳)』という、限定二十冊しか作られなかった句集が、展示が始まってから、持っているよ、という方が現れて、文学館に寄贈され、今は観られるようになっている、という話には驚き、改めてまじまじとショーケースの中の『かりみち帖』を眺めてきました。

また、三回目の観覧の直前に、YouTubeで公開されていた、五十嵐秀彦さん、鈴木牛後さん、瀬戸優理子さんによる鼎談「細谷源二と齋藤玄が私たちに遺したもの」も視聴したのですが、その中で、細谷源二の

 北の地に倖せありと来しが雪
 明日伐る木ものをいはざるみな冬木

の二句について、
「この中の『雪』『冬木』は季語だけれども、源二は季題としてこれらの言葉を使っている感じはしないよね」「俳句というより一行詩を詠いあげる感じ」というお話、また、

 一人死に五人泣きあとはそらぞらしい合掌

の句を引いて、「源二っていう人は自分の周りをすごく良く見ているし、人っていうものを見ている。人間がテーマなんだなっていう感じがとてもします」というお話があり、その辺りに自分は、源二の句を始めとする幾つかの作品に、現代川柳に通じるものを感じていたのかも、と、とても腑に落ちる感じでした。

驚いたのは、花鳥風詠からの脱却と、現代の詩・文学としての俳句を目指した新興俳句運動が、昭和6年(1931年)から昭和16年(1941年)という、比較的最近(と言っても約92年前ですが)に起こった運動だということです。暗黒の狂句100年の歴史からの脱却と、あるいは生命主義、あるいはプロレタリア文学としての川柳を目指した、新興川柳の運動が興ったのが仮に『アツシ』発刊をその始めとすると大正6年(1917年)だったことを思うと、新興俳句運動がそれより約14年もあとに興ったことが意外でした。

今回の特別展では、昭和初期からの俳句について少し学ぶことが出来ましたが、それ以前、そして現代の俳句や川柳、短歌についてももっと知りたいと思います。和歌から派生した「俳諧の連歌」の発句が俳句になり、更には七七の短句に五七五の長句をつけていく前句附から川柳が生まれましたし、狂句から新川柳への改革運動も、古島一雄が主筆をつとめた「新聞『日本』」が、発行停止を免れるため、『直接に時事を批評せず、なんとか間接的にやる方法はないかと考へた末』、正岡子規に依頼して試みた『時事俳句』に端を発していることを思うと、俳句は短歌(和歌)の、川柳は俳句の影響を受けていることは確かですが、現代では短歌→俳句→川柳という一方的な流れではなく、それぞれが影響を与えあっているのではなかろうか、と感じています。

更には、『新興俳句弾圧事件』について今、2023年にこの特別展を開催したことにも、大きな意味を感じます。この時代を『新しい戦前』にしないために、アンテナを張り、言葉を磨いておかなければ、いえ、今、言葉を発せねば・・・と思います。

それにして、本当に興味深い素晴らしい展示で、同じような企画を川柳でもやってくれないかな、と思ってしまいます。北海道立文学館さん、ぜひお願いします!

『細谷源二と齋藤玄 北方詩としての俳句』展は2023年3月19日まで! 札幌近郊の方、お勧めですよ!

(参考文献:斎藤大雄著『北海道川柳史』)

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